奇跡の条件


朝のNHK連ドラが終盤を迎えている。

「カーネーション」

主人公の小原糸子さん役が好演をしていた小野真千子さんから
夏木マリさんへバトンタッチされ、最近やっとその人物像に
慣れてきました。

今朝の回で、病院内でファッションショーに参加する末期ガンの患者さんに
糸子さんがかけた言葉がとても印象的でした。

「人間85歳を超えたら、奇跡を起こす資格が与えられるんだよ。」

詳しいセリフは覚えていないが、その趣旨は年をとったからこそ人に
伝えられることがあるんだということ。

幼い子供が元気に走り回っていても当たり前の光景だが、100歳を
超えたおばあさんが、走り回っていたらそれだけで奇跡。

末期ガン患者ができることは、その苦難を乗り越えて笑顔で幸せを
人々に届けること、そのセリフにぐっときました。

お時間のある方は以下をお読みください。

—-以下引用—-

― ウォーキングの練習が終了し患者や看護婦達はデイルームを後にする。
その中、看護婦に付き添われて最後に部屋を出て行く患者が糸子には気になった。
総婦長の相川が糸子に近づいてきた。

「小原先生…今更ですけどモデルを1人追加してもらえませんか?」

相川は一枚の紙を糸子に手渡した。

「今、最後に出て行った患者さん…書いてある通り末期のガンです…
残念ながら今の医療技術ではそない先ありません。
ここだけの話、そない言うてる今の医学かて何んぼのもんかは知りません…
いや正直、知れてます」相川は医学に対するジレンマを糸子に吐露した。

「…服かて知れてます。力を信じたいし、信じてる。…けど仰る通りやれば
やるほど知れてるちゅうことも毎度、突きつけられます…ほんでもご縁を
もろたんや…おおきに」

糸子は相川から受け取ったリストを嬉しそうに見た。

「よろしくお願いします」

相川は糸子に頭を下げた。

― 夕刻、糸子のショーの練習等を見ていた女性が糸子が待つ部屋に入ってきた。

「失礼します」

「吉沢加奈子さん?どうぞどうぞ入って」

糸子は吉沢加奈子を隣に座らせた。

「お宅、いっつもデイルームの隅っこに座って見てたやろ?
さすがの総婦長さんもほだされたらしいで?
特別に一人入れてくださいちゅわれてな」

「嬉しい…」

加奈子は照れくさそうに呟いた。

「ほんなに出たかったん?」

「はい」

糸子はショーに出たかったという理由を尋ねた。

「子供が2人居てるんです…その子らに見せちゃりたいと思たんです…
こない痩せてしもて髪もなくなってしもて…もちろん私も辛いです、
でも…母親がそないなっていくのを見てるあの子らの気持ちを思たら
たまらへんのです」

泣き出してしまった加奈子の肩を糸子は優しく撫でた。

「主人に連れられて病室に入って来る時のいつも脅えるような
顔が可哀相で辛あて…幸せにしちゃりたいのに…悲しませる事しかでけへんで…」

加奈子は遂には泣き崩れてしまう。

「よしよし、よう分かったよう分かった」

糸子は加奈子を抱き寄せて肩を叩いた。

「よっしゃ!ほな今度はうちの話しよか!」

糸子は明るい声で話し始めた。

「うちは今88や!そら88歳も大概なもんなんやで?
体はあちこち弱るしなあ…杖ないと歩けんし、いつ死んだかておかしない年よって、
いつ会うても娘らの顔には、まず「心配。大丈夫なんか?お母ちゃん」て書いちゃある。
ほんでもなあ85超えたあたりかいな、ごっついエエこと気付いたんや、教えちゃろか?」

「はい」

「年取るちゅう事はな…奇跡を見せる資格が付くちゅうことなんや」

「奇跡?」

「例えば若い子が元気に走り回ってたかて何もびっくりせえへんけど
百歳が走り回っていたらそんだけで奇跡やろ?
うちも88歳なって仕事も遊びもやりたい放題や
好き勝手やってるだけやのに糸がえらい喜ぶんや。
老いる事が怖ない人間なんていてへん。
年取ったらヨボヨボなって病気なって孤独になる…けど
そのウチももう大した事せんでも鰻食べたり酒飲んだりするだけ
人の役に立てるんや!ええ立場やろ?フフフ(笑)」

加奈子は糸子の笑顔に吊られて笑った。

「…ほんでな、あんたかてそうなんやで?」

糸子は加奈子の手の上に手を置いた。

「え?」

「笑てみ。にぃーって。」

戸惑いながら加奈子は笑顔を糸子にみせた。

「ほれ!ほんでもう奇跡や!末期ガン患者が笑たんや!
みんな、末期ガンなんかになったらもう二度と笑われへん思てんのに!
あんたが笑うだけでごっつい奇跡を人に見せられる。
あんたがピッカピカにオシャレしてステージを幸せそうに歩く…
それだけでどんなけの人を勇気づけられるか希望を与えられるか…
今、自分がそういう資格…いやこらもう役目やな…
役目を持ってるちゅう事をよーう考えとき」

「はい」

「あんたの出番はトリや。髪はこの頃ウィッグのエエのが
何んぼでもあるよってまた相談しよな?…
あんたが奇跡になるんやで」

加奈子は小さく何度も頷いた。


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この記事を書いた人

静岡県出身。東北大学工学部応用物理学科卒。
1993年アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。大手会計システムの設計・開発・データ移行に携わる。同社戦略グループへ配属後、医療法人システム導入PJT、大手石油会社業務改革に従事。同社を退社後、個人で複数の中小企業を相手に経営診断、営業支援を実施した後、1998年(株)ベルハート入社。発信型テレマーケティングメソッドの開発・導入指導をしつつ、1999年Bell Heart Inex Le Corp.代表として台湾へ赴任。同事業黒字化の後、代表退任し帰国。

2000年(株)ラストリゾート入社。国内拠点、海外拠点の拡大に従事。同年、同社取締役。2002年、同社取締役事業本部長就任。2006年代表取締役に就任。2009年同社代表退任後、数々の新規事業、新会社設立に参画。コンサルティングや経営参画しつつ、多くのプロジェクトに足を突っ込む根っからのお節介。
生涯調達資金額が70億円を超える資金調達のスペシャリスト。

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