インプレッションマネジメント


「先日、社内で、コミュニケーションに関するアンケート調査をしたのですが、
部下から、思ってもみなかった評価が上がってきまして・・・・・。」

大手通信会社の部長、Mさん。
この会社では、社長が会社のビジョンや方針を一方的に
社員に伝えるのではなく、それぞれの部署のリーダーが
部下に直接伝えることによって【ビジョンを共有する】という
スタイルを取っている。
部下にとって身近な上司が、自身の言葉でビジョンを噛み砕いて
部下に伝えることで、上司と部下が一体感を持ち、業績向上に
邁進できる環境をつくりたい、というのが一番の理由だ。
社内アンケートは、上司から伝えたビジョンが、部下に
どのように伝わったのかについて、部下から感想や評価、
要望などを聞くためのものだった。

「部下からの感想で一番ショックだったのは、
確かにビジョンの内容はわかったけれど、
上司の僕から、部下に対する期待や、情熱があまり伝わってこなかった。
今ひとつ、チームとしてモチベーションが上がらないと言われたことです。」

「ショックということは、ご自分では、そう思わないということですか?」

「はい。自分では、きちんと話したつもりでしたから。
それに、上司として、部下のモチベーションを上げられないのは
悔しいですよね。」

コーチングの要素の一つに、【Impression(インプレッション)】がある。
Impressionとは、【印象】のこと。
人の印象は、その人が発信する「言葉」「態度」「表情」「しぐさ」
「声のトーン、大小、抑揚、ボリューム」など、さまざまなメッセージから
感じられるものだ。
大きく分けると、「言葉の意味・内容から伝わるメッセージ」と
「言葉以外から伝わるメッセージ(姿勢、態度、表情、しぐさ、声のトーン、
大小、抑揚、ボリュームなど)」の両方の要素が組み合わさって、
その人の「印象」を決めていると言える。
すでに、欧米では、【インプレッション・マネジメント】は一般的。
例えば、大統領選挙の際、候補者は、いかに自分が国のリーダーとして
ふさわしいか、その印象を際立たせるため、ほとんどの場合、
トレーニングを徹底している。
しかも、重要なのは、候補者の印象を決めるのは、単に、
演説やプレゼンテーションが上手かどうか、という点だけではない、
ということだ。
例えば、討論会で、相手候補の話を聞いているときの「聞き姿」・・。
また、相手との議論の応酬の際に表れる、表情、身振り手振り、
声のトーン、あるいは、支持者からの質問に応えるときのまなざし、
息づかい等...。投票者である国民は、そのひとつひとつの
メッセージから伝わってくる【印象】に注目し、どの候補者が
一番好ましいのか判断するわけである。

日本でも、近年、【インプレッション】に関する認識が高まり、
自分のインプレッションを磨いたり、あるいは、自分でコントロール
できるようになりたいという経営者や組織のリーダーが、
専門のコーチをつけるケースが増えている。
組織の代表が、株主総会で株主を前にどんな立ち居振る舞いをするか、
どんなメッセージを伝えるか、あるいは自社の新製品発表会で、
マスコミや消費者を前にして、いかに良い印象を残すか・・・。
あるいは、何か、不祥事が起こってしまったときの、事情説明や
陳謝の会見での「あり方」等。(特に最近重要になってますね。)

リーダーの【印象】が会社のイメージにまで、影響を与えることも
あり得る現代では、リーダー自身が、様々なビジネスシーンで、
その場その場にふさわしい【印象】を作り出し、自分でコントロール
できるようになることが求められている。
そして、リーダーの【印象】は、組織内のコミュニケーションにも、
大きな影響を及ぼすことが多い。

例えば、上司が、

・ オフィスで、常に眉間にしわを寄せ、険しい表情でパソコンに向かっている。
・ ミーティングで、部下の報告を聞くときに、腕組みをして、上目遣いで部下をにらんでいる。
・ 部下が仕事の相談に来たとき、部下のほうに体を向けない。あるいは、視線を合わせない。
・ 部下に対して、いつも威圧感のある話し方をしている。

もちろん、上司としては、「意識して」そうしているのではなく、
「無意識に」そうなっていることも多いかもしれない。
しかし、「部下が安心して、提案・連絡・相談・報告などができる環境をつくる」ことを
マネジメントの仕事のひとつと捉えるなら、日頃、上司が、きちんと「意識して」
自分の【印象】をコントロールできることは、 組織内コミュニケーションの質の向上や
部下のモチベーション維持にとって、大きなメリットがあるといえる。

1ヶ月後。
Mさんは、ある重要プロジェクトの責任者として、
発足ミーティング冒頭の挨拶をすることになった。
そこで、あらかじめ、原稿を書いてもらい、発表の様子をビデオに
写してみることにした。
ずっと原稿に目を落としながら、読み続けること5分間。

「ご自分でビデオを見てみて、どうですか?」

「周りから、よく言われるんです。淡々としてるとか、
インパクトがないとか。確かに、こうして画面で客観的に見ると
そのとおりですね」

「Mさんが、今、読んだ文章は、確かに正確で、論理的な
内容だと思います。でも、それは用意した文章を《読んでいる》のであって、
Mさん自身からほとばしる言葉に聞こえないんです。
いわば、生きた言葉に聞こえない、ということでしょうか・・・。
部下からのアンケートにあった、情熱が伝わらない、という事と
関係があるかもしれませんね・・・・。」

「う~ん・・。難しいな。」

「今回、Mさんがこの5分間で、部下に、プロジェクトの責任者として
一番伝えたいメッセージって、何なのでしょうか?」

「それは・・・。」

考え込むMさん。

そこで、次回のセッションまでに、Mさんに原稿を練り直してもらうことに
した。次の質問リストに、自分なりの答えを考えてから、という約束で。

《  質問リスト 》
① あなたが、今、メンバーに伝えたいメッセージを一言でいうとするなら、何ですか?
② あなたは、部下からどんなリーダーだと思われたいですか?
③ 部下があなたに期待しているサポートとは何だと思いますか
④ リーダーとして、メンバーのモチベーションをあげるためにできることは何ですか?
⑤ メンバーを常に○○にするのが、自分の役割だ。
⑥ ○○するのが、リーダーとして自分に求められている任務だ

 1週間後。

「Mさん、質問リストに答えてみて、原稿に変化はありましたか?」

「そうですね。実は、まだ、全部まとまりきってないんですが・・・。
でも、質問リストに答えていて、気づいたことがあります。
僕が前に作った原稿は、あくまでも会社側から見たときの、
プロジェクトの位置づけや、重要性をひたすら正確に書いていたんだな、と。
だから、今ひとつ、部下に僕の情熱も伝わらないし、
部下に期待していることも伝わらなかった。
今は、逆に、メンバーの立場から見たときに、
リーダーの僕がどんなサポートをすると、安心してチャレンジできるのか、
そして、どういうスタンスでメンバーと関わっていくとモチベーションがあがるのか、
といったことを考えながら、原稿を書き直しています。」

「なるほど。Mさん、ひとつ、質問していいですか?
メンバーが安心して仕事にチャレンジできるために、Mさん自身が、絶対、
これをやるという、決めとしては、どんなことがあげられるでしょうか?」

「それは・・・。」 しばし、沈黙

「どんなことがあっても、僕がリーダーとして、
絶対にプロジェクトメンバーを守る、ということです。」

「いいですね。キーワードのひとつですね。本番では、今のように、
Mさんの生の言葉、生きた言葉をたくさん伝えてください。」

「そうですね・・・。 やってみます」

10日後。ミーティングでの発表を終えて。

「ミーティングはいかがでしたか?」

「緊張しましたけど、思い切って、読む原稿をなるべく少なくしたんです・・。」

聞いて見ると、最初のしゃべりだしは、どうしても緊張するので、
1分間くらいは、一字一句、文章を書いた原稿を見ながら話したらしいが、
そのあとの約5分間は、自分が伝えたいことのキーワードを箇条書きにした、
メモだけを手元に置いたそうだ。

「こうすれば、もう原稿に頼れませんから、あとは、自分の
生の言葉で伝えるしか方法がないですからね(笑)。
いや、逆に、キーワードをはっきりさせた分だけ、
自分の伝えたいことの軸がはっきりして、
むしろ、よかったですよね。」

嬉しそうに話すMさんの話を聞きながら、プロジェクトメンバーが目を見張って、
Mさんの話に聞き入るミーティングの光景が浮かんた。

新年度が始まり、様々な場面で、こうした生のメッセージを伝えなければ
ならない場面が増えてくる。また、マネジメントだけではなく、仕事上の様々な場面でも
こうしたプレゼンテーション能力はきっと役に立つはずだ。

<今日の記録>
RUN:10km(今月75km 今年1015km)
体重82.1kg 体脂肪率20.1%
カロリー:+2300-2850=▲550(累計▲19690)

<今日の食事>
朝:ごはん+コロッケ
昼:ごはん+ハンバーグ
夜:ごはん+コロッケ2つ
。。。何か単調だな。。。


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この記事を書いた人

静岡県出身。東北大学工学部応用物理学科卒。
1993年アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。大手会計システムの設計・開発・データ移行に携わる。同社戦略グループへ配属後、医療法人システム導入PJT、大手石油会社業務改革に従事。同社を退社後、個人で複数の中小企業を相手に経営診断、営業支援を実施した後、1998年(株)ベルハート入社。発信型テレマーケティングメソッドの開発・導入指導をしつつ、1999年Bell Heart Inex Le Corp.代表として台湾へ赴任。同事業黒字化の後、代表退任し帰国。

2000年(株)ラストリゾート入社。国内拠点、海外拠点の拡大に従事。同年、同社取締役。2002年、同社取締役事業本部長就任。2006年代表取締役に就任。2009年同社代表退任後、数々の新規事業、新会社設立に参画。コンサルティングや経営参画しつつ、多くのプロジェクトに足を突っ込む根っからのお節介。
生涯調達資金額が70億円を超える資金調達のスペシャリスト。

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 部下が部署の問題点を指摘するメールを上司に送り、上司はそのメールに対し「皆さんよろしく」とだけ付け加え、そのまま転送という形で送信しているケースがよくあります。自分の言葉で「理想」vx.「現実」➪「ギャップ=問題点」➪「改善案(要仮説&検証)」という形で発信していただきたいものです。

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